授業中、窓の外をぼんやりと眺める。

二月も暮れる頃、空はどんよりと、やせた木は黒く寒々と、常緑樹すらくすんだ色に見える。枯れた風景。暦の上ではとっくに春だといっても、春めいた空気はどこにも感じられない。

こんな景色を見てると、心まで寒くなってくる。

何とはなしに思い浮かべたジローの顔で心がぽやっと暖かくなったのが嬉しいようなむかつくような。

……最近会ってない。メールも電話もしてない。

ジローは、メールの文体はやたらとハイテンションなくせして実際あまりメールをしない。俺もそこまでしない方だけど……寂しくなったらメールくらいしたくなってもいいだろぃ。前はたまにそういうとき短いメールを送ったりしてたけど、いつくるかわからない返信を待って心をすり減らすのにもほとほと疲れた。

会いたいなぁ……

シャーペンをくるくると回しながらジローのことを考える。

きっと氷帝も今は授業中だろうけど、ジローはやっぱり寝てるに違いない。授業が終わったら宍戸とかに起こされてんのかな、……そう思っただけで心の端がジリリと焼けつく音がした、ああまた自己嫌悪に嵌る。

いつもプラス思考で自信だけは人一倍だったはずの俺が人を羨むなんて　認めたくないけど、この感情は事実だ。

そもそも俺はアイツに追いかけられていたはずなのにいつの間に立場が逆転したんだろう。体も心も、もうすっかりジローのものだ。

屈服、って言葉がぴったりだと思う。なんか色気のカケラもねぇけど。

……屈服、なんて。

自分で連想した言葉ながら、思わず嘲笑が浮かぶ。それは俺が一番きらう言葉のひとつじゃなかったっけ。

強かったはずの俺はまったく、どこへ行ったんだ。

あまりにもあっさりと、俺はジローにつくりかえられてしまっている。

まあでもそんなことを言えども俺の妙技が天才的なことに変わりはないし、試合に負けるのはどうしたってイヤだし、つくづくジローだけが、俺の特別、例外だ。

あーあ。

空を見ているのがツラくなってきて、机に突っ伏した。

ぐちゃぐちゃ考えをめぐらせた結果、結局ジローのことが恋しくなっただけだ。

会いたい。

返信を待つのがつらいからメールはしたくない。出てくれなかったらつらいから電話はしたくない。俺の方から連絡は取らない。

早くいつもみたいに空気読まずに会いに来やがればかやろう。

寂しいし授業はつまらないしもう寝ようかとか思っているとポケットの中で携帯が震えた。

……期待で肌が粟立つ、いやでも期待しちゃダメだ、きっと迷惑メールか何かに違いない。自分に言い聞かせながら、教師に気づかれないようにこっそりと、恐る恐る新着メールをチェックする。

"今日、ブンちゃんち泊まりに行くね～(*⌒▽⌒*),ﾟ.:｡+ﾟ♪

　部活終わるくらいに、立海行くから(^з^)-☆Chu!! ”

紛れもなくジローからのメール。叫び出しそうになるのを必死で堪える。少し身じろぎすると仁王が絶妙なタイミングでこっちを見てきた。くそ、なんでこういう時に限って教室にいんだよアイツ……。睨み付けようとしたがうまくいかない。……ニヤっと笑って視線を外された、妙に聡いから絶対あとで絡んでくるに違いない、ああもう最悪だ！ちくしょう、全部ジローのせいだ。

浮かれた気持ちがばれないように、わかった、と一言だけの素っ気ないメールをそそくさと送る。…すぐに返信が来た。

“あれ？ブンちゃんいま授業中じゃないの～(･ω･)？？”

………しくった……！

体中から力が抜ける。もう返信するのやめた。これ以上は何してもボロが出そうな気がする。そろそろ授業も終わるし、部活に励みつつおとなしくジローが来るのを待とう、そうだそれが一番いい。……そう思うのに、あと数時間したらジローに会える、そう思っただけで胸がきゅっとする。会えないのも嫌だけど、待つ時間の方が耐えがたい。たまらなくなって、

会いたい　早く来て

と返信になってない内容のメールを返した。

ああもうダメだ、はやくあいにきて。ジローのこと想いすぎてこわれそう。こんなことを思う自分は、一体どこのうぜえ女だよ、って感じでほとほといやになるけど、ジローにしかそんなこと思わないから、ジローが俺のことを好きでいてくれるならこのままでいいかなと思う。あー俺はこうやってどんどん弱くなっていくんだ。ジローのせいでどんどん弱くなっていくんだ。むかつく。むかつくほど大好き。

あんなメール送ったからきっと慌てて来るんだろうな、ジローのことだから部活なんかサボってきそうだ。あたふたして跡部に怒鳴られてるだろうジローを想像するとざまあみやがれって感じで無性に楽しくなってきた。なんだかんだジローはいつでも余裕ぶっこいてるように見えるから(寝てばっかだし)、たまにはこんぐらいいーだろぃ。

さて、今日はあいつにどの妙技を見せてやろっかな。そういえば、こないだの新技を試してみてもいいかもしんない。

ようやっと元気が出てきたところで、終業のベルが鳴った。

ああ、あと何分で、ジローに会える？