君に、素直に

年に一度、世の中みんなが浮かれるゴールデン・ウィーク。連休の最後にはジローの誕生日が控えてるから、0:00ぴったりに祝ってやろうと、こうして俺が昨日から泊まり込んでやってるわけで。

 

そして、いま。

 

ジローの部屋の壁に掛かってる時計は、十一時四十分を過ぎた頃を示してる。

……あと十分と少しで、ジローの誕生日。

 

………なのに。

 

左肩に乗った金色の頭からは少し前から、くーくー、とそれはそれは幸せそうな寝息が聞こえていた。

 

「おーい、あとちょっとでお前一五歳になるんだぜぃ……」

 

小声でぽそりと呟く。

 

わかってるんだ。

久しぶりのまとまった休みで、しかもずっと一緒にいられるから俺もジローも浮かれちまって、二人でバカ騒ぎしてこの二日間ジローは昼間まったく寝てないし、その上ゆうべ夜更かしまでして、いつも学校で半分以上の時間を睡眠に充ててるジローにとってはここまでもったのがむしろ奇跡だって。

ジローを寝かせてやらなかった俺も悪いんだ。

 

でも、お前ここで寝ちまったら本末転倒だろぃ……。

 

そんなことを思いながらジローの頬を軽くつっつく。ふにふにしてて柔らかくてちょーきもちいい。

別に、起こす気はないんだ。

ほんとに疲れてるんだろうし、それにコイツの幸せそうな寝顔を見てるとなんだか俺まで頬が緩んできた。

 

 

 

そういえば、初めて見た慈郎の顔も、こんな幸せそうな寝顔だったっけ。

 

慈郎に初めて会った新人戦の日のことが、鮮やかに懐かしく思い出される。

 

試合の前、会場を一人でぷらぷら歩いてたら、茂みの向こうにちらりと金色が見えて。なんだろうと覗き込んだらあの氷帝のジャージが転がってて心底ビックリした。

氷帝って言ったら、ウチと同じくらいスパルタだって聞いてたから、どこの学校にも仁王みてーにふてぶてしいヤツはいるんだなあ、とか思ったっけ。

 

その時の慈郎はやっぱり幸せそうに眠ってて。それは本当に、天使の寝顔、って形容がぴったりだった。

 

思わず数秒見つめてたら、なんだかやたら背の高い無表情なヤツがそいつを担いで連れ去っちまって、呆気にとられたのを覚えている。

気付いたらもうすぐ試合の始まる時間で、慌ててコートに向かった。

 

そしたらネットの向こうにいるのはさっきの金髪で、しかもぶっさいくなツラで欠伸してるわユニフォームなのかトランクスなのかわからない代物穿いてるわ、さっきの天使の面影は全く無くて、俺はかなり動揺したんだ。

いざ試合が始まると、さっきまでのグダグダ感はどこへやら、なかなかキレのあるテニスしやがるし、しかも俺が必死に技を繰り出すたびに目をキラキラさせて、もうなんなんだコイツは、みたいな。

 

思えば出会った当初から、ジローには俺ばっかりが振り回されてる気がする。

 

周りにはいつも俺のわがままで慈郎を振り回してるように見えてるかもしれないけど、実際、慈郎の予測不能な行動やら気まぐれやら思いつきやらに俺は振り回されてばっかりだ。

 

 

 

……今だって、まさにそう。

 

でも、それも全然イヤじゃないのは、……やっぱり、惚れた弱みってヤツ。

 

ふわふわの金髪も天使みたいな寝顔もとびきりの笑顔も、案外男っぽい手とか体も、時々すごくカッコいいところとか時々エロくなる声とかも、だらしなくてむちゃくちゃで寝てばっかで自己中なところだって、

ぜんぶぜんぶ すき だから

 

「……好きだよ、慈郎」

 

好きすぎて、まるで俺ばっかり好きみたいで、胸がきゅうっとした。

 

ジローはいつも、たくさん俺に好きって言うけど、きっと絶対俺のほうがジローのことを好きだ。

 

寝てるジローに言った「好き」は当然かえってこない、だからよけいに切なくなって。

そのうえ俺の肩で眠るジローの顔を見てると愛しい気持ちがあふれてきて、いとしさとせつなさとがない交ぜになってどうにかなりそうで、胸が甘く苦く疼いて、どうしようもなく目が潤んだ。

 

ジローを起こさないようにそっと、でも力をこめて、ジローに抱きつく。腕のなかの優しい温度に、少し心が温まった。

 

………あ。

あと十秒もしないうちに、五日になる。

 

…五、…四、…三、…二、…一、

 

 

 

ジローの唇に、珍しい俺からのキスを贈って。

 

 

 

そっと腕を解きながら、ジローを見つめて大切に言葉を紡ぐ。

 

 

 

「ジロー、誕生日おめでとう。…愛してる」

 

 

 

ジローに抱きついて日付を越して、0:00ぴったりに、キスをして、日付が変わる前の最後に言った言葉も、日付が変わって最初に言った言葉も、慈郎の名前で、うん、これだけで最高の誕生日プレゼントだろぃ?

 

寝てて残念だったな、ジローのばーか。

 

でも、ジローが起きてたら絶対にこんなことできなかっただろう、な。

 

もう一度、ジローの額にキスをしたのを最後に、俺の記憶はふつりと途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の、朝。

 

ジローの部屋にあるたくさんの目覚まし時計のばかでかいアラーム音で俺もジローも最悪な目覚めを迎えた。

 

ベッドに寄りかかったまま床の上で一晩中寝てたモンだから、体中ガチガチだ。あちこち痛くてしょうがない。

 

 

「……ふあー……」

 

「うあーあ……あ、じろー、ハッピーバースデー……」

 

 

ジローに大きな欠伸を移されながら、俺にとっては二回目、起きてるジローにとっては今日初めてのお祝いの言葉。

 

 

「あ、ありがとブンちゃ………ってブンちゃあああん!!」

 

「な、なんだよ」

 

 

いきなり覚醒したジローの大声に驚く。ジローはなにやらショックを受けた表情で騒ぎはじめた。

 

 

「なんで起こしてくんなかったのー!!?俺ブンちゃんに0:00ぴったりに祝ってもらうの楽しみにしてたのにー!」

 

「はぁ!?んな楽しみだったんなら自分で起きてろよ!ジローのばかッ」

 

「Aー、でもひどEー……」

 

 

しょげてるジローを見てると、思わず笑いがこみあげてきた。

ちゃんと祝ってやったのにさ。ばかジロー。

 

 

「俺、ちゃんと0:00に祝ったかんな」

 

「え、マジ!?ねぇ、何かしてくれた!?」

 

 

途端に目を輝かすジロー。

くるくるよく変わる表情は、見てて楽しい。

 

んー、でも。

 

 

「教えてやんねー」

 

「ええーっ!お願い、もっかい同じように祝ってよ~」

 

「やーだよ。寝てたお前が悪い」

 

「うぅ、ごめんなさい~……」

 

 

凹むジローに、ちょっとだけ優越感。

やっぱ何と言おうが先に勝手に寝たのはジローだし、こんぐらいの仕打ちは許されるだろぃ。

 

でも、今日はジローの誕生日だから。

俺からの精一杯のサービスを。

 

 

 

ジローに思いっきり抱きついて、

 

ジローの唇にキスをして、

 

ジローの瞳をしっかり見つめて

 

 

 

「誕生日おめでとう、慈郎。あいしてる」

 

 

 

目の前の俺の太陽が、しあわせそうに満面の笑顔を溢した。

 

 

 

「ありがとう、ブンちゃん。俺も愛してるよ」

 

 

 

額と額をこつんと合わせて、笑い合う。

 

ああ、しあわせ、だな。

 

 

 

 

 

 

ジロー、

 

生まれてきてくれて、ありがとう

 

 

 

来年、祝ってやるときは

 

ちゃんと起きてろよ?

 

 

 

……来年も、

 

おんなじように

 

ジローの誕生日を祝えますようにっ!


誕生日おめでとう、ジロー!!!

 

ちょっと遅くなっちゃってごめんね><でもまだお昼だからゆるして笑

 

さて……ジロ誕のはずなのに9割ブン太しかいねえ^ω^てかブン誕に続いてちょっとジロが不憫^ω^

あれ…おかしいな…私ジローの方が愛あるはずなのに…な………愛が空回りしたようです、今年><*←←

 

いつもの通りオチがぐっだぐだなんですが まあドンマイということで←

マジで愛はめっちゃつまってますから!!ほんとに!

 

ジロー大好き愛してるうううう

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